第27回湘南ひらつか囲碁まつり1000面打ち大会

秋晴れの中、日本の囲碁界で最も大きなイベントの第27回を迎えた「湘南ひらつか囲碁まつり1000面打ち大会」(主催:平塚市/公益財団法人平塚市まちづくり財団、湘南ひらつか囲碁まつり実行委員会、後援:公益財団法人日本棋院/木谷門下会)が神奈川県平塚市にて、10月13日に催されました。

昭和の囲碁界でタイトル戦を彩った、大竹英雄名誉碁聖、石田秀芳二十四世本因坊、加藤正夫名誉王座、武宮正樹九段、小林光一名誉棋聖、趙治勲名誉名人、小林覚九段らは、皆、木谷實九段門下だ。木谷九段はプロになっただけでも70余名の弟子を育てた空前絶後の実績があるのです。木谷九段が居を構え、多くの内弟子と生活した「木谷道場」が平塚市にあったことから、同市は「囲碁のまち」としての活動を続けているのです。

湘南ひらつか囲碁まつりは、500面の碁盤を商店街にずらりと並べ、なんと77人もの棋士がファンと対局するというイベントです(500面×2回で1000面打ちになります)。

そのほかにも、「石倉昇九段の囲碁入門教室」「囲碁初心者個別指導コーナー」「囲碁ボール体験コーナー」「トッププロ(山下敬吾九段、羽根直樹九段)の囲碁教室」など多くの催しがあり、通りすがりの人でも囲碁を楽しめるようになっています。

今年は、木谷實九段50回忌、日本棋院100周年ということで、特別プログラム「トッププロが選ぶこの一手・歴史が彩る対局」に、国民栄誉賞受賞の井山裕太王座と上野梨紗女流棋聖が登場。吉原由香里六段の司会で楽しいトークが行われました。

大阪在住の井山王座は、関東の地方都市のイベントに登場する例が少なく、平塚は初めて。ファンの皆さんは大興奮。写真撮影やサインをひっきりなしに求められた井山王座は笑顔で応じていました。

また木谷實九段の孫にあたる小林泉美七段手製の紙芝居「囲碁棋士木谷實」も披露されました。文章、イラストともに泉美七段作。これを見ていた大竹名誉碁聖は昔を思い出し、涙が止まらなかったといいます。

さらに大竹名誉碁聖、石田二十四世本因坊、武宮正樹九段、小林覚九段による「木谷門下トッププロによる座談会」で、修業時代の思い出を中心に語られました。笑いあり涙ありのトークで多くのファンを魅了していました。

最後には懇親会も開かれ、棋士との交流にファンも大満足の1日となりました。

勝ち星ランキングから見えること

日本棋院では毎週、勝ち星ランキングが発表されます。

10月3日現在のランキングは以下のとおりです。

①藤沢里菜女流本因坊 40勝18

②上野愛咲美女流立葵杯 35勝15

 芝野 虎丸名人   35勝16

④井山 裕太王座   34勝18

⑤一力  遼棋聖   31勝12

 上野梨紗女流棋聖  31勝19

⑦加藤 千笑三段   30勝14敗

⑧三浦 太郎三段   29勝8敗

 星合 志保四段   29勝18敗

⑩六浦 雄太八段   28勝7敗

 酒井 佑規五段   28勝8敗

 福岡航太朗五段   28勝10敗

⑬牛  栄子四段   26勝20敗

⑭許  家元九段   25勝13敗

⑮本木 克弥九段   24勝8敗

⑯富士田明彦七段   23勝14敗

 志田 達哉八段   23勝19敗

⑱桑原  樹二段   22勝6敗

 鶴田 和志六段   22勝9敗

 山下 敬吾九段   22勝11

㉑黄  翊祖九段   21勝6敗

 小西 理章二段   21勝10敗

 謝  依旻七段   21勝16敗

㉔伊藤 優詩五段   20勝7敗

 小林  覚九段   20勝8敗

 寺山  怜六段   20勝8敗

 卞  聞愷四段   20勝8敗

 小山 空也六段   20勝9敗

 伊藤 健良三段   20勝9敗

 伊   了三段   20勝9敗

 内田 修平八段   20勝10敗

 山森 忠直七段   20勝10敗

 鈴木  歩七段   20勝13敗

 向井 千瑛六段   20勝14敗

(女流、若手棋戦を含む)

上位6人はさすが、現在活躍しているタイトルを保持しているトップ棋士が占めています。

井山裕太王座は30代、上野梨紗女流棋聖は10代ですがほかは20代です。

現代は20代が活躍の中心になっている証左でもあるでしょう。

一力遼棋聖は応氏杯で世界チャンピオンになっていますが、その勝ち星はカウントされていません。というのは、応氏杯のコミが動く(秒読みがなく、持ち時間が切れるとコミ2目を払って35分もらう)という独特のルールがあるので、公式記録にしないというのですが、なんかもやもやします。一力さんは予選(2勝)、本戦(2勝)、準決勝(2勝1敗)、決勝(3勝)の合計9勝をあげていますので、事実上、40勝で1位の藤沢里菜女流本因坊と並んでいるのです。

棋士は勝ち星、対局数でも争っていますので、なんとかならないものでしょうか。

ずらり名前が並んでいますが、そのほとんどが20代から30代前半の棋士ばかりです。

新人王を獲得した三浦太郎三段(19)や福岡航太朗五段(18)m桑原樹二段(16)ら10代の棋士もいるなか、40代と60代は注目に値します。

山下敬吾九段は46歳。平成四天王(山下、張栩九段、高尾紳路九段、羽根直樹九段)でランキングされているのは唯一人と頑張っています。名人リーグに在籍もして、なおも第一線での対局を積み重ねています。

6月まで日本棋院理事長を務めていた小林覚九段は65歳で大ベテラン勢のなかでひとり気を吐いています。

重職から解かれて、対局に集中されているのでしょう。

過去、タイトル獲得最高齢は藤澤秀行名誉棋聖の67歳(王座)ですが、現在はAI時代で若手が急成長できる環境にあり、同じように見るのは大変です。

しかし、ベテランの活躍は、若手にも「あの年齢になってもやればできる」との励みにもなります。

山下九段、小林九段の活躍にも注目してください。

「10月は6日間しか休みがない」トップ棋士の宿命 芝野虎丸名人のハードスケジュール

8月末に始まった名人戦はフルセットまでいくと11月上旬まで続きます。その間、10月7日には天元戦、16日には王座戦が始まります。その全てに出場が決まっているのが芝野虎丸名人です。

名人戦(2日制)が第4、5、6局、天元戦が3局、王座戦は2局入っていて、そして数日空いている日程に国際棋戦が入っているというのです。

国際棋戦はもちろん、挑戦手合は地方対局が多いので、対局日前後は移動日になります。そうなると家で1日過ごせる日が、6日間しかないというのです。

「大変ね」「体力が持つのかしら」などと心配もしたくなりますが、虎丸名人の心配事は違いました。「勉強する時間がない」でした。あんなスリムな体型ですが、体力は問題ないと思っているのですね。

そういえば、名人戦第3局の帰路、乗り換えの名古屋で一行とは離れ、別行動をしていました。記録係を務めた西岡正織四段らとボーリングにいったようなのです。はやり体力は有り余っているのでしょう。

もうひとつ、海外棋戦の日本代表は一力遼棋聖とふたりなので、夕ご飯などを一緒に食べる機会が多くなるのだそう。ふだんは仲が悪いわけではまったくないのですが、名人戦、天元戦で戦っている相手でもあるので、「どうなんでしょうねえ……」と少々困惑しているような様子でした。

囲碁界秋の陣、名人戦、天元戦、王座戦のトリプル挑戦手合は大変なのですが、「体力お化け」の井山裕太王座は七冠を保持していたこともある10年ほどはずっとでずっぱりで実績を残しました。 芝野名人も「体力お化け」なのか。注目していきたいと思います。

名人戦の食とおやつ

将棋の藤井聡太七冠が食べたおやつが流行ったり、「勝負メシ」が話題になったりしますが、囲碁界も負けてはいません、というか同じように食事をしたりおやつを食べたりするのですが、なかなか大きな話題にはなりません。

今回は挑戦手合、9月17、18日にあった名人戦第3局の「食」をご紹介しましょう。

2日制の挑戦手合では、一行は3泊4日の日程を組みます。

到着したその晩と対局が終了した晩の食事は対局者と一緒ですが、そのほかは対局者はそれぞれ自室で過ごすことになります。

対局中の昼食、おやつは、対局者は事前アンケートで好きなものを選んで注文します。

旅館やホテルの特別料理が出されることが多く、豪華なメニューが見受けられます。

たとえば今回は、天丼のエビが伊勢エビであることや、牛丼の肉も松阪牛をつかっていました。

囲碁棋士は麺類など軽めのものを好む傾向があります。井山裕太王座は海鮮がお好きで、海鮮丼やお寿司、海鮮パスタなどを選んでいました。

芝野虎丸名人は丼物、一力棋聖は寿司やそばなど和食がお好みのようです。

ちなみに将棋棋士のほうがガッツリ系のかたが多いそうで、うな重やカツ丼などを注文するそうです。

おやつも注文したものが午後3時に運ばれ、盤側に置かれます。すぐ食べるのか、それともしばらく手をつけないのか。完食するのか残すのか、そんな様子からも、対局者が形勢をどう見ているかも判断したりします。

芝野名人は、甘いケーキにフルーツジュースをあわせる甘党ですが、今回は、紅茶を選びましたね。

一力棋聖は育ちの良さが食事にも表れていて、出されたものはきれいに平らげます。それはいつでもです。そうしているのに、ダイエットにも成功するなんて、体調管理にも余念がないのですね。

食からも、対局者の様子をうかがうのも、我々ライターの生業です。

一力遼九段、宿願の世界一達成 応氏杯世界選手権優勝

第10回応氏杯世界選手権(主催:応昌期囲棋教育基金会)決勝五番勝負で一力棋聖は、謝科九段(中国)を3連勝で倒、見事、優勝を果たしました。

日本勢の国際棋戦優勝は19年ぶり(2005年LG杯張栩九段)で、日本人に限れば、1997年に小林光一名誉棋聖が富士通杯を制して以来のことです。

一力棋聖は河北新報社の取締役も務める二刀流で、河北新報からは号外も出されました。

8月中旬に行われた第1、2局を連勝していた一力棋聖は、9月8日に上海で打たれた第3局も逆転勝ちして、日本宿願の世界一に就きました。

一力棋聖「対局後、重いトロフィーを受け取り、多くの方々からお祝いの言葉をいただいて、やっと実感が沸いてきました。準決勝(三番勝負)で柯潔九段(中国)に勝って大きな自信になりました。心技体のなかで、心を強化してきました。以前ほど動揺しなくなったり、気負わなくなったりました」

昨年アジア大会で個人で4位となって、悔し涙を流していた一力棋聖。そこから、ナショナルチームでの練習碁をもっと厳しいシステムになるよう提言したり、世界戦帯同棋士を気心の知れた許家元九段に指名したりと、環境面を整えることにも注力してきた結果です。

今の神がかった強さの一力棋聖はどこまで続くのでしょうか。

9月17日からは名人戦第3局で芝野虎丸名人と対局します。

一力棋聖に大いに注目してください。