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日本独自の「2日制対局」にある「封じ手」

現在行われている「名人戦」と「棋聖戦」の挑戦手合七番勝負は、1局持ち時間(ひとり)8時間、2日間に渡って打たれます。2日制の対局は日本独自のもので、他の国や国際棋戦では行われていません。

日本は江戸時代から囲碁を専業とするいわゆるプロがいて、時間無制限で対局していたという背景があります。

2日制の対局は一晩はさむので、不公平が生じないように、「封じ手」という手法が採られています。

1日目、定刻(名人戦の場合は午後5時半~)になったら、次の一手は盤上に打たずに、棋譜に書き込み、封筒に入れて保管(名目上は立会人ですが、実際は、宿の金庫)する、という仕組みです。

2日目の朝に、立会人が開封してその手を対局者が盤上に置いて再開される、という段取りです。

封じ手を行ったほうは、(当たり前ですが)後戻りができないため、書き間違えていたらどうしようと思ったり、誤算などがあったことに気がついたりすると一晩中悩み続けることになります。睡眠をとらないと勝負に差し障りがあるので、悩むより眠るほうがいいとはわかっても、眠れなくなるようです。

以前の棋士はそんなことを案じ、封じ手をしたがらなかったのですが、最近の若い棋士はあまり気にしていないようです。

ちなみに、将棋も同様に封じ手が行われますが2通用意したり両対局者がサインをしたりなど、様式が違います。

2通用意するのは、ひとつなくしても大丈夫なように、ということだそうですが、囲碁の方から見ると2通それぞれに違う手が書いてあったらどうするのか?などと心配してしまいます。

長時間(2日制)の碁なんて国際情勢(!)に遅れているという人もいますが、長い碁を打っていることで胆力が鍛えられ、一力遼棋聖は世界チャンピオンになることができました。

「封じ手」の伝統とともに、2日制も続くことを願っています。

「黒石」那智黒石の採石場を見学してきました

囲碁で使う碁石、何でできているかご存じですか。

簡易的なものはプラスティックやガラスでできてきますが、本来は、白石が蛤、黒石が那智黒石から作られています。

10月26、27日にあった「第10回熊野那智黒石囲碁まつり」に取材に行ってきました。

三重県熊野市は、唯一の那智黒石が採掘される場所です。それにちなんでの囲碁大会が催されているのです。

大会が始まる前に観光に連れて行っていただきました。

黒石に使われる那智黒石は、熊野市神川町だけで採れ、碁石のほか硯や朱肉入れ、香炉などに加工されています。那智黒石の粒子は細かい0.1ミクロンで、黒石不透明の砕屑ものから成り、砕屑竜士はほぼ一定方向に並んでいるので、一定方向に割れやすい特性を持っています。

那智黒石の採石場は、市街地から車で40分ほど山に入ったところにありました。

山肌にむき出しになっている那智黒石が見えます。

採掘して、碁石の厚みにスライスし、碁石をくりぬきます。

碁石は厚みがあるほど高価になりますが、あまり厚すぎても球体に近くなりコロコロして打ちにくくなります。

熊野市で加工された黒石は、宮崎県日向市に送られ、日向はまぐりでできた白石とセットになって販売されるとのことです。

ちなみに、日向市では「日向はまぐり碁石まつり」が行われています。

有段者になったら、いい碁石、いい碁盤を手に入れるのもいいですね。おすすめです。

第27回湘南ひらつか囲碁まつり1000面打ち大会

秋晴れの中、日本の囲碁界で最も大きなイベントの第27回を迎えた「湘南ひらつか囲碁まつり1000面打ち大会」(主催:平塚市/公益財団法人平塚市まちづくり財団、湘南ひらつか囲碁まつり実行委員会、後援:公益財団法人日本棋院/木谷門下会)が神奈川県平塚市にて、10月13日に催されました。

昭和の囲碁界でタイトル戦を彩った、大竹英雄名誉碁聖、石田秀芳二十四世本因坊、加藤正夫名誉王座、武宮正樹九段、小林光一名誉棋聖、趙治勲名誉名人、小林覚九段らは、皆、木谷實九段門下だ。木谷九段はプロになっただけでも70余名の弟子を育てた空前絶後の実績があるのです。木谷九段が居を構え、多くの内弟子と生活した「木谷道場」が平塚市にあったことから、同市は「囲碁のまち」としての活動を続けているのです。

湘南ひらつか囲碁まつりは、500面の碁盤を商店街にずらりと並べ、なんと77人もの棋士がファンと対局するというイベントです(500面×2回で1000面打ちになります)。

そのほかにも、「石倉昇九段の囲碁入門教室」「囲碁初心者個別指導コーナー」「囲碁ボール体験コーナー」「トッププロ(山下敬吾九段、羽根直樹九段)の囲碁教室」など多くの催しがあり、通りすがりの人でも囲碁を楽しめるようになっています。

今年は、木谷實九段50回忌、日本棋院100周年ということで、特別プログラム「トッププロが選ぶこの一手・歴史が彩る対局」に、国民栄誉賞受賞の井山裕太王座と上野梨紗女流棋聖が登場。吉原由香里六段の司会で楽しいトークが行われました。

大阪在住の井山王座は、関東の地方都市のイベントに登場する例が少なく、平塚は初めて。ファンの皆さんは大興奮。写真撮影やサインをひっきりなしに求められた井山王座は笑顔で応じていました。

また木谷實九段の孫にあたる小林泉美七段手製の紙芝居「囲碁棋士木谷實」も披露されました。文章、イラストともに泉美七段作。これを見ていた大竹名誉碁聖は昔を思い出し、涙が止まらなかったといいます。

さらに大竹名誉碁聖、石田二十四世本因坊、武宮正樹九段、小林覚九段による「木谷門下トッププロによる座談会」で、修業時代の思い出を中心に語られました。笑いあり涙ありのトークで多くのファンを魅了していました。

最後には懇親会も開かれ、棋士との交流にファンも大満足の1日となりました。

勝ち星ランキングから見えること

日本棋院では毎週、勝ち星ランキングが発表されます。

10月3日現在のランキングは以下のとおりです。

①藤沢里菜女流本因坊 40勝18

②上野愛咲美女流立葵杯 35勝15

 芝野 虎丸名人   35勝16

④井山 裕太王座   34勝18

⑤一力  遼棋聖   31勝12

 上野梨紗女流棋聖  31勝19

⑦加藤 千笑三段   30勝14敗

⑧三浦 太郎三段   29勝8敗

 星合 志保四段   29勝18敗

⑩六浦 雄太八段   28勝7敗

 酒井 佑規五段   28勝8敗

 福岡航太朗五段   28勝10敗

⑬牛  栄子四段   26勝20敗

⑭許  家元九段   25勝13敗

⑮本木 克弥九段   24勝8敗

⑯富士田明彦七段   23勝14敗

 志田 達哉八段   23勝19敗

⑱桑原  樹二段   22勝6敗

 鶴田 和志六段   22勝9敗

 山下 敬吾九段   22勝11

㉑黄  翊祖九段   21勝6敗

 小西 理章二段   21勝10敗

 謝  依旻七段   21勝16敗

㉔伊藤 優詩五段   20勝7敗

 小林  覚九段   20勝8敗

 寺山  怜六段   20勝8敗

 卞  聞愷四段   20勝8敗

 小山 空也六段   20勝9敗

 伊藤 健良三段   20勝9敗

 伊   了三段   20勝9敗

 内田 修平八段   20勝10敗

 山森 忠直七段   20勝10敗

 鈴木  歩七段   20勝13敗

 向井 千瑛六段   20勝14敗

(女流、若手棋戦を含む)

上位6人はさすが、現在活躍しているタイトルを保持しているトップ棋士が占めています。

井山裕太王座は30代、上野梨紗女流棋聖は10代ですがほかは20代です。

現代は20代が活躍の中心になっている証左でもあるでしょう。

一力遼棋聖は応氏杯で世界チャンピオンになっていますが、その勝ち星はカウントされていません。というのは、応氏杯のコミが動く(秒読みがなく、持ち時間が切れるとコミ2目を払って35分もらう)という独特のルールがあるので、公式記録にしないというのですが、なんかもやもやします。一力さんは予選(2勝)、本戦(2勝)、準決勝(2勝1敗)、決勝(3勝)の合計9勝をあげていますので、事実上、40勝で1位の藤沢里菜女流本因坊と並んでいるのです。

棋士は勝ち星、対局数でも争っていますので、なんとかならないものでしょうか。

ずらり名前が並んでいますが、そのほとんどが20代から30代前半の棋士ばかりです。

新人王を獲得した三浦太郎三段(19)や福岡航太朗五段(18)m桑原樹二段(16)ら10代の棋士もいるなか、40代と60代は注目に値します。

山下敬吾九段は46歳。平成四天王(山下、張栩九段、高尾紳路九段、羽根直樹九段)でランキングされているのは唯一人と頑張っています。名人リーグに在籍もして、なおも第一線での対局を積み重ねています。

6月まで日本棋院理事長を務めていた小林覚九段は65歳で大ベテラン勢のなかでひとり気を吐いています。

重職から解かれて、対局に集中されているのでしょう。

過去、タイトル獲得最高齢は藤澤秀行名誉棋聖の67歳(王座)ですが、現在はAI時代で若手が急成長できる環境にあり、同じように見るのは大変です。

しかし、ベテランの活躍は、若手にも「あの年齢になってもやればできる」との励みにもなります。

山下九段、小林九段の活躍にも注目してください。