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「10月は6日間しか休みがない」トップ棋士の宿命 芝野虎丸名人のハードスケジュール

8月末に始まった名人戦はフルセットまでいくと11月上旬まで続きます。その間、10月7日には天元戦、16日には王座戦が始まります。その全てに出場が決まっているのが芝野虎丸名人です。

名人戦(2日制)が第4、5、6局、天元戦が3局、王座戦は2局入っていて、そして数日空いている日程に国際棋戦が入っているというのです。

国際棋戦はもちろん、挑戦手合は地方対局が多いので、対局日前後は移動日になります。そうなると家で1日過ごせる日が、6日間しかないというのです。

「大変ね」「体力が持つのかしら」などと心配もしたくなりますが、虎丸名人の心配事は違いました。「勉強する時間がない」でした。あんなスリムな体型ですが、体力は問題ないと思っているのですね。

そういえば、名人戦第3局の帰路、乗り換えの名古屋で一行とは離れ、別行動をしていました。記録係を務めた西岡正織四段らとボーリングにいったようなのです。はやり体力は有り余っているのでしょう。

もうひとつ、海外棋戦の日本代表は一力遼棋聖とふたりなので、夕ご飯などを一緒に食べる機会が多くなるのだそう。ふだんは仲が悪いわけではまったくないのですが、名人戦、天元戦で戦っている相手でもあるので、「どうなんでしょうねえ……」と少々困惑しているような様子でした。

囲碁界秋の陣、名人戦、天元戦、王座戦のトリプル挑戦手合は大変なのですが、「体力お化け」の井山裕太王座は七冠を保持していたこともある10年ほどはずっとでずっぱりで実績を残しました。 芝野名人も「体力お化け」なのか。注目していきたいと思います。

名人戦の食とおやつ

将棋の藤井聡太七冠が食べたおやつが流行ったり、「勝負メシ」が話題になったりしますが、囲碁界も負けてはいません、というか同じように食事をしたりおやつを食べたりするのですが、なかなか大きな話題にはなりません。

今回は挑戦手合、9月17、18日にあった名人戦第3局の「食」をご紹介しましょう。

2日制の挑戦手合では、一行は3泊4日の日程を組みます。

到着したその晩と対局が終了した晩の食事は対局者と一緒ですが、そのほかは対局者はそれぞれ自室で過ごすことになります。

対局中の昼食、おやつは、対局者は事前アンケートで好きなものを選んで注文します。

旅館やホテルの特別料理が出されることが多く、豪華なメニューが見受けられます。

たとえば今回は、天丼のエビが伊勢エビであることや、牛丼の肉も松阪牛をつかっていました。

囲碁棋士は麺類など軽めのものを好む傾向があります。井山裕太王座は海鮮がお好きで、海鮮丼やお寿司、海鮮パスタなどを選んでいました。

芝野虎丸名人は丼物、一力棋聖は寿司やそばなど和食がお好みのようです。

ちなみに将棋棋士のほうがガッツリ系のかたが多いそうで、うな重やカツ丼などを注文するそうです。

おやつも注文したものが午後3時に運ばれ、盤側に置かれます。すぐ食べるのか、それともしばらく手をつけないのか。完食するのか残すのか、そんな様子からも、対局者が形勢をどう見ているかも判断したりします。

芝野名人は、甘いケーキにフルーツジュースをあわせる甘党ですが、今回は、紅茶を選びましたね。

一力棋聖は育ちの良さが食事にも表れていて、出されたものはきれいに平らげます。それはいつでもです。そうしているのに、ダイエットにも成功するなんて、体調管理にも余念がないのですね。

食からも、対局者の様子をうかがうのも、我々ライターの生業です。

一力遼九段、宿願の世界一達成 応氏杯世界選手権優勝

第10回応氏杯世界選手権(主催:応昌期囲棋教育基金会)決勝五番勝負で一力棋聖は、謝科九段(中国)を3連勝で倒、見事、優勝を果たしました。

日本勢の国際棋戦優勝は19年ぶり(2005年LG杯張栩九段)で、日本人に限れば、1997年に小林光一名誉棋聖が富士通杯を制して以来のことです。

一力棋聖は河北新報社の取締役も務める二刀流で、河北新報からは号外も出されました。

8月中旬に行われた第1、2局を連勝していた一力棋聖は、9月8日に上海で打たれた第3局も逆転勝ちして、日本宿願の世界一に就きました。

一力棋聖「対局後、重いトロフィーを受け取り、多くの方々からお祝いの言葉をいただいて、やっと実感が沸いてきました。準決勝(三番勝負)で柯潔九段(中国)に勝って大きな自信になりました。心技体のなかで、心を強化してきました。以前ほど動揺しなくなったり、気負わなくなったりました」

昨年アジア大会で個人で4位となって、悔し涙を流していた一力棋聖。そこから、ナショナルチームでの練習碁をもっと厳しいシステムになるよう提言したり、世界戦帯同棋士を気心の知れた許家元九段に指名したりと、環境面を整えることにも注力してきた結果です。

今の神がかった強さの一力棋聖はどこまで続くのでしょうか。

9月17日からは名人戦第3局で芝野虎丸名人と対局します。

一力棋聖に大いに注目してください。

芝野虎丸名人、秋からのタイトル戦に出ずっぱりに

8月末からの名人戦開幕は碁界の秋の陣。名人戦と重なるスケジュールで天元戦、王座戦が続々と始まります。

芝野虎丸名人に一力遼棋聖が挑戦する名人戦の第1局が8月27、28日に打たれて、一力棋聖が完勝の内容で制しました。一力棋聖のあまりの調子の良さに、これはこのまま……?と思っていたら、8月30日に王座戦挑戦者決定戦が芝野名人vs一力棋聖で打たれ、芝野名人が勝って、井山裕太王座への挑戦権をつかみました。

さらにその3日後の9月2日に、芝野名人は許家元九段を下して、天元戦の挑戦者にも名乗りを挙げました。天元のタイトルホルダーは一力遼天元です。

その結果……

名人戦 芝野虎丸名人-一力遼挑戦者

天元戦 一力遼天元-芝野虎丸挑戦者

王座戦 井山裕太王座-芝野虎丸挑戦者

となり、芝野名人にとっては超多忙なスケジュールのなかでタイトル戦を打つことになりました。

名人戦が始まる前に6月末から7月にかけて打たれた碁聖戦も井山裕太碁聖-芝野虎丸挑戦者(3連勝のストレートで井山碁聖が防衛)の組み合わせでしたので、現在の囲碁界はこの3人中心でまわっているということですね。

名人戦第1局で不調かと思われた芝野名人ですが、この1週間の内容を見ても決してそんなことはないと実感しました。そして9月4、5日には名人戦第2局が打たれ、難戦を一力棋聖が制し、2連勝としました。

一力棋聖は第2局宮崎辛き超した翌日に中国に飛び、応氏杯決勝5番勝負の第3局~に挑みます。

強い棋士の宿命とはいえ、皆ハードスケジュールとなります。体調だけは気をつけていただいて、悔いのない戦いをしていただきたいと思います。

第49期囲碁名人戦七番勝負 芝野虎丸名人の出身地・相模原市で開幕

芝野虎丸名人に一力遼棋聖が挑戦する第49期囲碁名人戦七番勝負が、神奈川県相模原市で開幕し、一力挑戦者が勝利し、幸先の良いスタートを切りました。

相模原市は今年、市制施行70周年記念ということで相模原市出身の芝野名人が3連覇を目指す囲碁名人戦を誘致しました。

相模原市はもちろん芝野名人応援。ポスターやチラシは、芝野名人のソロ写真。(主催紙のものなどは両対局者の写真が掲載されます)。

地元の声援が届けば届くほど力になる棋士もいますが、地元対局は「肩に力が入りすぎて空回りしてしまう」とおっしゃる小林光一名誉棋聖(北海道旭川市出身)もいます。

芝野名人はどちらのタイプでしょうか。

一力挑戦者も2年前の棋聖戦第4局では出身地の仙台市「宮城県知事公館」での対局があり、熱い声援が背中を押したようで、見事勝利を飾りました。

対局のほうは、白番の芝野名人が大きな模様を広げ、そこに一力挑戦者が侵入して戦いが起こりました。一力挑戦者がうまくしのいでリードし、名人が仕掛けるトラップを次々かわして勝利。

対局終了後には、大盤解説会に両対局者が登壇して碁の感想などを話して、ファンを喜ばせました。

名人戦対局のほか、大盤解説会、指導碁会、入門教室など多くの催し物が行われ、会場の「杜のホールはしもと」はおおいに賑わっていました。

入門教室は、芝野名人、一力挑戦者を育てた洪道場の洪清泉四段が道場のスタッフとともに担当する豪華版です。

相模原市は、パリオリンピックで金メダルを受賞したスケートボード吉沢恋選手ら有名選手が多いのが特徴です。

囲碁を知らないかたにも、ぜひ芝野虎丸名人を覚えてもらい応援してもらいたいと思います。