「映画ライター」「スポーツライター」など〇〇ライターというお仕事がありますように、「囲碁ライター」という職種があります。その囲碁ライターの仕事のなかのひとつに、「観戦記」なるものを書く「観戦記者」がいます。
新聞に毎日掲載されている囲碁欄に、棋譜とともに載る文章が観戦記です。
観戦記は日本独特のもののようです。
韓国や中国では「解説記」はあるのですが、対局の背景、ちょっとした四方山話や対局者の情報などを入れ棋譜を解説しながら読み物にする「観戦記」はないとのことです。
囲碁ライターは囲碁の記事を書くのを生業とすればなれますが、観戦記者は実は狭き門でなかなかなれないのです。
棋聖戦、名人戦、王座戦などは順に読売新聞、朝日新聞、日経新聞と新聞社が主催ですので紙上に観戦記を書くことができれば観戦記者になれます。
私が担当している名人戦の観戦記者は基本的に4人です。各社ほぼそのくらいの人数で回しているので、「観戦記者」は「定員」がなにしろ人数が少ないのです。
私はたまたま、名人戦観戦記者の方が高齢で亡くなり欠員が出たことで、新聞社の囲碁担当のかたに誘っていただきました。私の次に仲間になった観戦記者も、やはり前任が突然死され欠員が出たことによります。観戦記者になるには、運、タイミングも必要なのです。
「観戦」記者というのですから、碁の対局を盤側で見ることから仕事は始まります。
対局者が入室する前から対局室でスタンバイし、対局者の様子を観察し、気づいたこと(ルーティンや持ち物、挨拶の声のトーンなど)をメモします。
対局中は対局室と検討室を行ったり来たりして、解説者に局面の状況をききながら対局者を観察します。
一番見ておかなくてはいけない大事な場面が、検討(感想戦)です。
どう考えて、その着手を選んだのか。なぜ、形勢が変動したのかなど、対局者の頭の中を探ります。疑問に思えば、直接対局者に「この手は考えましたか?」「こう打たれたらどう対応するつもりだったのですか」などと聞くこともあります。
朝10時対局開始からだいたい対局が終わるのが夜の9~10時くらい。検討を見届け、Youtube放送を終えて、日本棋院を出るときには、日付けが変わっていることもあります。 そして後日、改めて解説者に解説をきいて、執筆することになります。執筆にはだいたい数日かかります。