「二刀流の脳科学・脳の限界と可能性」 脳科学者・茂木健一郎氏と一力遼四冠のビッグ対談

茂木氏は幼少期から囲碁を打ち、有段者の腕前

朝日カルチャーセンター(東京都新宿区)の50周年記念対談として、脳科学者の茂木健一郎さんと一力遼四冠の対談が1月11日に実施されました。

茂木健一郎さんは囲碁ファンで、小学校に上がる前から囲碁を打っているそう。有段者の腕前ときいています。

講演会は、茂木さんが一力四冠に質問する形式で進みました。

一力四冠は、棋士でありながら河北新報社五代目御曹司で取締役も務めており、まさに二刀流の人生を歩んでいます。

対談の一部をご紹介しましょう。

AIの出現によって世の中がどう変わっていくのか

囲碁や将棋界は、シンギュラリティのあとを生きている唯一の世界で、脳科学者としても注目しているといいます。

茂木「当時、将棋関係者と話していたとき、AIに負けたら将棋の意味がなくなると思って、AIとの対戦に羽生善治九段は出せないと言っていました」

しかし、現実は違いました。囲碁界はどうでしょうか。

「昔、100のうちどれくらいわかっているか、という問いに、藤沢秀行名誉棋聖が『5』とこたえたとかいう話がありますね」と茂木さん。

「毎日、碁をやっていて、新しい発見があります。100のうち5もわかっていないと思います。AIもわかっていないことはわかります。AIでさえ極めてなく、広い意味では、AIも僕も皆さんもわかっていないのです。AIが出てきて人間がこれまで打ってきた定石が打たれなくなったりしましたが、江戸時代の本因坊道策や秀策が打ってきた布石をAIが有力と示すなど、囲碁の奥深さを実感しています。総合的にはAIがまさりますが、部分部分、AIが勘違いしやすい展開などでは人間が上回る場面があります。たとえば、新手を探す研究のとき、あえてAIが示す進行をずらしています。AIがいい手に気づいて、評価値があがることがあります」と一力四冠。「AIをまねしているだけでは強くなれません。自分の頭で考えることが大事で、気を抜くと棋士もAIをまねしているだけになってしまいます」と、AIとの付き合い方を語りました。

ゾーン体験について

「何度かそういう経験があります。3、4回。集中して邪念なく打ち進めることができました」と一力四冠。茂木さんは「陸上の為末大選手やスピードスケートの清水宏保選手は、1、2回と言っていました。『今やるぞ』といってもゾーンには入れません。一手間違えたら終わる極限の状態だからこそ、一力四冠は入ることができたのでしょう」。「打っているときはわかりませんでしたが、あとから思えばあれは……という感じで。盤上に集中はしているのですが、秒読みの声は聞こえていました。終わったとき、出し切ったなと」と一力四冠。

AIが発達したことで

茂木氏が一力四冠に質問する形式で進められた

リフレッシュについて、一力四冠が「オフの時間を意識的にとるようにしています。皇居ランや水泳にはまったこともありました」と話すと、「羽生善治九段はソファに座ってぼーっとしていると言っていたことがありました」とも茂木さん。「脳は心臓と同じで休むことがないので、他のモードで活動するしかありません。ランダムに脳マッサージをするイメージです」。一力四冠は、「クイズ番組を見たり、頭をつかうパズルをやったりするのが好きですね」。

さらに、AIの出現によって、「AIで一手一手を数値化することで、棋士がどれくらいすごいことをやっているのかがわかってきた」と一力四冠。

「AIが発達すると人間には、サボるか鍛えるかの二つの道があります。

囲碁界では、AIをさらに自分を高める方向に使っているのですね」と茂木さんは示唆していました。